大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成5年(ワ)7552号 判決

原告

新谷四良

被告

石田朝夫

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金五八一万五二八〇円及びこれに対する平成三年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一〇二五万五五五七円及びこれに対する平成三年一一月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、追突事故で傷害を負つた原告が、加害車両の運転者に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成三年一一月三日午後九時五五分ころ

(2) 発生場所 富山県高岡市佐野一四七六―四先国道一五六号線上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告石田朝夫(以下「被告朝夫」という。)保有、被告石田美紀(以下「被告美紀」という。)運転の普通乗用自動車(富五七た七八九八、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 普通乗用自動車(なにわ五五せ三六〇三、以下「原告車」という。)運転中の原告

(5) 事故態様 本件事故現場で被告車が原告車に追突したもの

2  責任原因

(1) 被告朝夫

被告朝夫は、被告車の保有者であるから、自賠法三条により原告に対し損害賠償責任を負う。

(2) 被告美紀

本件事故は、被告美紀の前方不注視の過失により発生したものであるから、同人は民法七〇九条により原告に対し損害賠償責任を負う。

3  原告の受傷、治療経過など(甲三、五の1ないし5、六、七、九、弁論の全趣旨)

(1) 傷病名

外傷性頸部症候群

(2) 治療機関・通院状況

〈1〉 富山県済生会高岡病院(以下「高岡病院」という。)

通院 平成三年一一月三日(実日数一日)

〈2〉 布施治療センター

通院 平成三年一一月八日から平成四年六月三〇日まで(実日数一五一日)

〈3〉 アエバ外科病院

通院 平成四年七月六日から同年一〇月三〇日まで(実日数六〇日)

〈4〉 大阪市立桃山市民病院(以下「桃山市民病院」という。)

通院 平成五年二月九日から同月二四日まで(実日数五日)

(3) 自賠責保険では後遺障害については非該当とされた。

4  損害の填補

原告は、被告らから、二一六万〇六四〇円の支払を受けた。

二  争点

1  原告の後遺障害の有無、程度

(1) 原告

原告は、平成五年二月二四日その症状が固定したが、後遺障害として、頸項部重圧感、左肩痛、右手・左示中環小指しびれ、両足しびれ、右下腿しびれ、頸椎運動障害が残存したものであり、右は後遺障害等級第一二級一二号に該当する。

(2) 被告ら

原告の症状固定日は平成四年一〇月三〇日であり、前記のとおり自賠責保険では非該当とされてもおり、後遺障害は残存していないというべきである。

2  損害額

とくに後遺障害による逸失利益の存否

第二争点に対する判断

一  原告の後遺障害の有無、程度

1  前記事実に、証拠(甲二、四、五の1ないし5、六ないし九、一一、一六、一七の1、2、乙一の2、3、検乙三ないし五)、弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故は、被告美紀が被告車を運転して時速約四〇キロメートルで走行中、一瞬居眠りし、信号待ちのため停止していた原告車に追突し、原告車を三メートル押し出したもので、被告車には前バンパー・フロントグリル凹損の損傷が、原告車には後部バンパー・トランク凹損の損傷が残つた。原告車の本件事故による修理費は二八万一一九〇円であつた。

(2) 原告は、本件事故当時、四九歳(昭和一七年一月三日生)の健康な男子であつたが、本件事故当日、頸の痛みを訴え、高岡病院で外傷性頸部症候群と診断されて治療を受け、大阪に戻り、同月八日から柔道整復師が営む布施治療センターに通院して治療を受けたが、同センターの初検時、頸部から両肩部・背部への筋緊張が著明で、頸部痛、項部痛、肩こり、背部痛、腰部痛を訴え、左肩関節の運動制限が著明で夜間痛むと訴え、両上肢のしびれ感があつて、水野病院にレントゲン検査、診察依頼をしたところ、頸椎の生理的カーブの消失、腰椎部に左凸の側弯を認めた。

同センターでは、光線治療、マツサージ治療、鍼治療、極低周波治療、ローラー・脊椎骨格変形徒手矯正術等を施術された。

同センターでの原告の通院は、平成三年一一月―一六日、一二月―一九日、平成四年一月―一六日、二月―二〇日、三月―二一日、四月―一七日、五月―二〇日、六月―二二日であつた。

(3) その後、平成四年七月六日、アエバ外科病院で受診して、平成四年一〇月三〇日まで通院治療したが、その症状は、頸項部重圧感、左肩痛、右手指のしびれ、両足しびれ、右下腿しびれ、頸椎運動障害であつた。

同病院での原告の通院は、平成四年七月―七日、八月―一八日、九月―一八日、一〇月―一七日であつた。

(4) アエバ外科病院の主治医は、平成四年一〇月三〇日に症状固定との診断をしたが、その際の原告の自覚症状は、頸項部重圧感、左肩痛、右手・左示・中・環・小指しびれ、両足しびれ、右下腿しびれであり、他覚症状は頸椎運動障害(前屈、側屈制限)、左第五ないし第七頸椎椎体圧痛、左上腕神経叢圧痛、項部筋緊張圧痛、頸椎レントゲン検査で第五・第六頸椎前縦靱帯硬化縁あり、頸椎MRI検査(平成四年七月一七日実施)にて第五、第六頸椎椎間板変性所見ありというもので、鍵反射は正常であつた。

なお、右の第五・第六頸椎前縦靱帯硬化縁、第五、第六頸椎椎間板変性が外傷によるとの記載はない。また、右医師は、本件事故との因果関係については否定しえないとしている。

(5) 原告は、平成五年二月九日、頸部の精査を希望して、桃山市民病院で受診し、両上肢筋電図検査を受け、右上腕三頭筋より神経損傷波形を記録した。右神経損傷波形は、同病院の医師によれば、下部頸椎部(第七、第八頸椎、第一胸椎)の求心性神経または遠心性神経の障害により起こつている可能性が考えられるが、原因については、その機序は不明であるとしている(なお、甲九には、症状固定時は平成五年二月二四日と記載されているが、桃山市民病院での治療は検査目的であり、アエバ外科病院での診断に照らし、右記載日を症状固定日と認めることはできない。)。

以上の事実が認められる。

2  右の、本件事故による衝撃は、決して軽微ではなく、これにより原告は外傷性頸部症候群の傷害を負つたこと、症状固定と診断された平成四年一〇月三〇日に頸項部重圧感、左肩痛、右手・左示・中・環・小指しびれ、両足しびれ、右下腿しびれの自覚症状が残存していたこと、右症状が本件事故後発症したものであること、右症状の一部について裏付けるに足る頸椎椎間板の変性が認められることによると、原告の経年性の頸椎椎間板変性に本件事故が寄与して症状固定後も後遺障害として前記神経症状が残存したと認めるのが相当であり、その自覚症状、他覚的所見に照らすと、右後遺障害は後遺障害等級表一二級一二号に該当するというべきである。

ところで、前記事情に照らせば、右の既往症に本件事故が寄与した割合は六割と認めるのが相当であるから、後遺障害による損害額算定にあたつては、その損害の四割について控除するのが相当である。

なお、原告本人尋問によれば、事故の一か月前後から右手の痺れが出てきた旨供述するところであり、被告らは本件事故から右症状の出現までの時間的経過を疑問とし、医師の意見書(乙二)を提出するところであるが、原告供述は痺れを自覚したのが、高々その頃であるというに過ぎず、他の症状が強固であれば必ずしも自覚しないこともあり、また、前記布施治療センターの診断書(甲四)によれば、原告の自覚した時期も一か月前後であるか疑問というべきで、本件事故との因果関係を否定することはできない。

二  損害額(以下、各費目の括弧内は原告ら主張額)

1  治療費(一五三万三〇四〇円) 一五三万三〇四〇円

治療費として高岡病院で二万八九四〇円、布施治療センターで一一九万〇二〇〇円、アエバ外科病院で三一万二六二〇円、水野病院で一二八〇円を要したことは当事者間に争いがない。

2  通院交通費(五万五七六〇円) 五万五四四〇円

原告が布施治療センターに一五一日通院したこと、アエバ外科病院に六〇日通院したことは当事者間に争いがないところ、原告本人によれば、布施治療センターまでの電車料金は一往復二四〇円、アエバ外科病院までのバス料金は一往復三二〇円であることが認められるから、通院交通費は五万五四四〇円となる。

240×151+320×60=55,440

3  休業損害(六二万七六〇〇円) 六二万七六〇〇円

原告の本件事故による休業損害が六二万七六〇〇円であることは当事者間に争いがない。

4  通院慰謝料(一〇〇万円) 八〇万円

前記認定の本件事故による原告の傷害の部位、程度、治療経過、症状固定までの通院期間、実通院日数等に照らすと、慰謝料として八〇万円が相当である。

5  後遺障害による逸失利益(五四七万八〇七七円) 三一五万九八四〇円

証拠(甲一〇、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、履物製造卸業者である東光商事有限会社に勤務し、サンダルのサンプル作り等の業務に従事し、平成三年には年間四九二万五〇〇〇円の給与を得ていたが、前記のとおり、本件事故後、指先のしびれ等により、その作業に支障を来していることが認められ、右症状が他覚所見に裏付けられることに照らせば、原告の労働能力は症状固定日である平成四年一〇月三〇日から少なくとも一〇年間一四パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、前記所得を基礎としてホフマン式計算法により本件事故発生時から年五分の中間利息を控除すると、逸失利益の現価は、五二六万六四〇一円となる。

しかしながら、本件事故による右後遺障害への寄与度は前記のとおり六割と認めるのが相当であるから、四割を控除すると、逸失利益は、三一五万九八四〇円となる。

(計算式)4,925,000×0.14×(8.590-0.952)=5,266,401(小数点以下切り捨て、以下同様)

5,266,401×0.6=3,159,840

6  後遺障害慰謝料(二六〇万円) 一三〇万円

前記認定の原告の後遺障害の程度、原告の身体的素因、その生活への影響等を総合勘案すると、一三〇万円が相当である。

7  小計

以上によれば、原告の本件事故による損害額(弁護士費用を除く)は、七四七万五九二〇円となり、前記既払金二一六万〇六四〇円を控除すると五三一万五二八〇円となる。

8  弁護士費用(九〇万円) 五〇万円

本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は五〇万円と認めるのが相当である。

三  まとめ

以上によると、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し金五八一万五二八〇円及びこれに対する不法行為の日である平成三年一一月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 髙野裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例